プログラムと曲目の解説
第1部(20世紀の吹奏楽の名曲)
1. 吹奏楽のための第1組曲(G.ホルスト)
2. デリー地方のアイルランド民謡〜羊飼いの呼び声 (P.グレンジャー)
3. ラフーン(A.リード)(クラリネットソリスト伊藤寛隆)
4. 祈りとトッカータ(J. バーンズ)
第2部(オーディション合格者による選抜バンド)
5. 金管楽器と打楽器のための交響曲(交響曲第1番)(A.リード)
第3部(A. リード作品)
6. マーチ・シルバーシャドー(A.リード・1999新譜)
7. 北国の伝説(A.リード)
8. 第3組曲(A.リード)
9. パッサカリア(A.リード)
10. アルメニアンダンス・パート1(A.リード)
ご挨拶と曲目の解説/音の輪コンサート代表:青山 均
20世紀は吹奏楽を大きく発展させた。現代音楽という名前でくくられる実験音楽が出口のない暗い穴の中でうごめいている間に、吹奏楽は次第に市民権を獲得し新しい形態として定着した。その最大の理由は一流作曲家たちが吹奏楽のために作品を書き次の世代の音楽家たちを刺激しその表現形態の可能性を見せてきたからである。
スーザ(1854-1932)の行進曲の数々の名曲から始まった吹奏楽の歴史は、1909年ホルストによって「吹奏楽のための第一組曲」と1911年の「吹奏楽のための第二組曲」が作曲されてその可能性を大きく踏み出した。続いて1920年ストラヴィンスキーによって「管楽器のためのシンフォニー」1924年「管楽器とピアノのための協奏曲」などの名曲が世に出され、1937年パーシー・グレンジャーが「リンカンシャーの花束」を、1945年ダリウス・ミヨーが「フランス組曲」、1951年ヒンデミットが「交響曲変ロ長調」を書いた。ヒンデミットの作品によって大きな啓示を受けA.
リードが1952年に「管楽器と打楽器のためのシンフォニー」を発表し、彼に続いてJ. バーンズたちのような新しいスタイルを持った多くの作曲家たちが大作を発表し続け、こうして20世紀の後半に吹奏楽はその黄金時代を迎えるのである。
我々はこのような吹奏楽の大きな潮流の中でその最も大きな流れを作ってきた作曲家A. リードを心から尊敬し、同じ時代に生き彼とともにこのコンサートを続けてこれたことを最高の誇りと思っています。
21世紀への転換期を迎え20世紀の名曲として選び今日演奏する曲はホルストの「第一組曲」以外はその作品を直接には選んではいませんが、それぞれが吹奏楽の歴史を築いてきた最も重要な作曲家たちの作品であり、ここで演奏する価値ある作品であると確信しております。
どうぞ最後まで吹奏楽の素晴らしさをお楽しみ下さい。
第一組曲/グスタフ・ホルスト(1887-1934)
イギリスを代表する作曲家ホルストは、1915年に管弦楽のために作曲した組曲「惑星」で一挙に世界的作曲家として注目を浴びるようになった。しかしそれ以前に彼は吹奏楽のための二つの組曲を作曲している。それが「第一組曲」と「第二組曲」で、今日の吹奏楽の基礎を築いた古典的名曲として今なお世界中で演奏されている。
今日演奏する「第一組曲」は、1909年に作曲され、「シャコンヌ」「インテルメッツォ」「マーチ」の三っつの楽章からできていて、それぞれにイギリス的気品が漂う名曲である。
「デリー地方のアイルランド民謡(ロンドンデリー)」と
「羊飼いの呼声」/パーシー・グレンジャー(1882-1961)
グレンジャーは敬愛するグリーク(1843-1907)の死を悼んでアイルランドの民謡をもとにピアノ曲として「ロンドンデリー」と「羊飼いの呼声」の2曲を出版した。後に1918年にミリタリーバンドのために編曲されて出版されて今日のように世界中で演奏されるようになった。
「ロンドンデリー」は、1855年にJ. ロスという女性によってアイルランドのデリー地方で蒐集され「アイルランドの古い音楽のペトリ・コレクション」として出版された中にある曲である。
また、「羊飼いの呼声」は、セシル・J. シャープによって蒐集された英国の伝統的なモーリス・ダンスミュージックである。イングランド各地の農村で、鈴や装身具で飾って踊られていた「モーリス・メン」のテーマで、今日でも「シェパーズ・ヘイ(Shepherd's
Hey)」や他の伝統的なダンス音楽が、ヴァイオリンまたはパイプと太鼓などの伴奏で踊られているものを見かけられる。
ラフーン/アルフレッド・リード
"A Rhapsody for Solo BbClarinet and Band (after
James Joyce) "というサブタイトルが付けられたこの曲は、イギリスの詩人ジェイムス・ジョイス(1882-1941)に因んで書かれた狂詩曲で、1965年5月9日、デラウェア大学で開催された第16回現代音楽フェスティバルの閉会コンサートで、クラリネットの名手ユージン・F.ゴンザレスの独奏、作曲者の指揮するディラウエア大学シンフォニックバンドによって初演された。
ラフーンの原文とその大意はつぎのようなものです。
SHE WEEPS OVER RAHOON
- Rain on Rahoon Falls softly, softly falling,
- where my dark lover lies.
- Sad is his voice that calls me, sadly calling,
- at gry moonrise.
-
- Love, hear thou
- how soft, how sad his voice is ever calling,
- ever unanswered, and the dark rain falling,
- then as now.
-
- Dark too our hearts, O love, shall lie,
- and cold as his sad heart has lain
- under the moongrey nettlew, the black mould,
- and muttering rain.
-
- 彼女はラフーン以上に泣く
-
- 雨がラフーンの上に静かに降る 静かに降っている
- 私の暗い恋人の眠るところに。
- 悲しみは私を呼ぶ彼の声 悲しく呼んでいる
- 灰色の月の出に。
-
- 恋人よ 貴方が聞こえる なんと弱々しく なんと悲しげに ずっと彼の声が呼んでいる
- けして報いられない そして暗い雨が降り続けている
- 今も。
-
- 我々の心の方がもっと暗い おう 恋人よ 私も冷たく葬られよう
- 彼の悲しみの心が横たわるように
- ムーングレイの苛草の 黒い土の下に
- そしてしとしと雨の降る。
-
- (訳詩:青山 均)
祈りとトッカータ/ジェイムズ・バーンズ
アルヴァマー序曲と並んでJ. バーンズの人気を確実にした曲の一つで、1981年ニューメキシコ州立大学ウインドアンサンブルの委嘱で作曲された。曲は重々しい「祈り」と神秘的な呪文を感じさせるメロディーの前半部分と、多彩な楽器と軽妙なリズムの「トッカータ」部分からなり、エキゾチックな雰囲気で現代的な感覚に溢れた作品である。
J. バーンズはカンザス大学の助教授で、作曲理論を教え同大学のバンドを指導している。1978年「第一交響曲」1981年には「Visions
Macabre」でABAオストワルド賞を受賞し、さらに1982年「第二交響曲」で吹奏楽のレパートリー向上に最も貢献した作曲家に送られるニール・チョス賞を受賞。現在、陸上自衛隊中央音楽隊の委嘱により「第五交響曲」を作曲中である。APIの招へいで毎年日本に来てコンサートを開催している。
金管楽器と打楽器のための交響曲/アルフレッド・リード
1952年に完成されたこの曲は、1944年に作曲された彼のデビュー作「ロシアン・クリスマス・ミュージック」に次ぐ大作でり、金管楽器と打楽器による音の表現の限界に挑戦しようとした31歳の若きA.
リードの「第一交響曲」として位置づけられる傑作となった。
曲は3楽章構成で、ホルン4パート、コルネット2パート、トランペット4パート、トロンボーン4パート、ユーフォニアム2パート、テューバ2パート、打楽器5パートで書かれている。
第一楽章では最初の大きく鳴る導入部でこの楽章の主な主題が提示される。次に行進曲風のアレグロ、そして静かなコラール風の中間部、そして最初の行進曲風のテーマが戻ってきて壮大に終わる。
第二楽章は第一楽章とは対照的に歌による3部形式で、ユーフォニアムとホルンとテューバの長い叙情的な旋律で始まる。第二部はティンパニの長い低い音の上で6声のフーガが展開されクライマックスの後最初のテーマに戻って静に終わる。
第三楽章はラテンアメリカのリズムの上で構成されたロンドで、3台のトムトムがリズムをリードしながら、次第に金管楽器を伴って激しく動いた後静になって前半を終える。静寂の中でホルンとトランペットのカノンが鳴り響き低音楽器に受け継がれた後、最初のリズムがよみがえり壮大なコーダを響かせて力強い終演を導く。
初演は1952年12月シカゴの全米大学ディレクターズ協会総会で、ドナルド・ムーアの指揮するオーバリン大学シンフォニックバンドのメンバーによって行われた。
マーチ・シルバーシャドー/アルフレッド・リード
このコンサートマーチは、1997年秋に三重県の桑名吹奏楽団によってこのバンドの創立25周年記念のために委嘱された。リードはこのマーチを1998年の春に書き上げ、9月6日桑名市民会館で開催された桑名吹奏楽団創立25周年記念第25回定期演奏会でリード自身の指揮によって初演された。翌年アメリカの出版社ハル・レオナード社より出版されて世界中で演奏されている。
「シルバーシャドー」は最高級車ロールスロイスの車名で、25周年記念、つまり銀婚式と同じような意味で25周年を祝う言葉「シルバー」を掛けてこのタイトルが付けられた。優雅で気品あるれそして堂々たる雄姿をもって走り抜けるロールスロイスの名に相応しい曲となっている。
曲は3つの個々の主題を基にした伝統的な三部形式のマーチで、トリオのユーフォニアムの旋律は印象的である。
北国の伝説/アルフレッド・リード
この北国の伝説はミネソタ州立ベミジ大学の第24回サマーミュージッククリニックのために作曲され、そのクリニックでビーバーバンドの演奏により作曲者の指揮で初演された。
曲は、現在のミネソタの地に古くから居住していたチッペワ・インディアンの音楽から取られたいくつかのテーマに基づいて自由に展開された三つの部分からなるラプソディーである。テーマは五音音階に基づくが、この作品においては五音音階に限定された作曲手法に固守することなく、近代的和声法や対位法も使用している。その結果、シンフォニックバンド又はウインドアンサンブルのオーケストレーションの中において、新旧(五音音階と近代的作曲技法)が融合した響きをもった作品となっている。
(A. リード、プログラムノート)
第三組曲/アルフレッド・リード
A. リードは全部で7作の組曲を発表している。4番目に書かれた「小組曲」以外は作曲された順番の番号がその曲のタイトルになっている。第三組曲は、ミネソタ州のトマス・ジェファーソン高校の委嘱で作曲され、初演は1981年5月21日この高校のバンドを作曲者自身が指揮して行われた。曲はサブタイトルにあるようにバレーの情景を題材にした4楽章の組曲である。
第一楽章 ファンファーレとイントラーダ(Fanfare and Intrada):ブラスのファンファーレに続いて序章に入る。絶えず転調を繰り返すというパターンがこの楽章の特色である。
第二楽章 パ・ド・ドゥ(Pas de deux):男女2人の踊り。4拍子に続く美しい旋律のワルツが二人の踊る愛の情景を彷彿させる。
第三楽章 風変わりなポルカ(Polka Excentrique)2拍子のポルカの所々に余分な半拍が加わって面白い効果をあげている。
第四楽章 全員の踊り(Danse generale):劇的な表現効果によってクライマックスが演出されている。
パッサカリア/アルフレッド・リード
パッサカリアとはヨーロッパのダンスのひとつの呼び名で、古典音楽以前の器楽曲に多く用いられた楽曲形式である。シャコンヌもほぼ同義に使用されている。主に3拍子のゆっくりしたテンポで奏され、通奏低音によるテーマが次々に上声部の変奏で繰り返されて曲は展開してゆく。
リードはこの伝統的な器楽の手法を現代吹奏楽で表現しようという大きな望みをもってこの曲に取り組み、8小節の主題を40曲の変奏で綴り終えてその並々ならぬ才能を遺憾なく発揮して見せた。恩師であるヤーティンとジャンニーニの想い出にというサブタイトルが付けられている。
アルメニアンダンス・パートI/アルフレッド・リード
アルメニアンダンス・パートIは1972年の夏に作曲され、1973年1月10日イリノイ州で行なわれた全米大学バンドディレクター協会総会において、この曲をA.リードに委嘱し献呈されたハリー・ビージャン博士の指揮するイリノイ大学シンフォニックバンドの演奏で初演された。
この曲は、アルメニアのクラシック音楽の創始者ゴミタス・ヴァルタベッド(1869-1935)によって蒐集し研究された4000曲以上に及ぶアルメニア民謡の中から、彼によってピアノ伴奏付き独唱や無伴奏の合唱のための曲として編曲され最初の楽譜となった5つの曲で構成されている。それらはスコアでは順に「あんずの木」、「山ウズラの歌」、「オーイ、ぼくのナザン」、「アラガツ山」、「ゆけ、ゆけ」とタイトルされているが、この5つの民謡で構成された小品が、現代の本格的なコンサート・バンド、ウィンド・アンサンブルの手法を駆使したアルフレッド・リードによって自由に展開され、大規模な交響的狂詩曲となってよみがえった。
アルメニアンダンスは、この後1976年2月に後半の3楽章が加えられて全4楽章、演奏時間30分の大作として完成された。楽譜は、全楽章の完成を待たずに、1楽章の部分をアルメニアンダンス・パートIとして1974年にサム・フォックス社より出版され、後半はパートIIとしてバーンハウス社から1978年に出版された。